![]() 1978年1月、目白駅近くに、現代空間にふさわしい工芸を紹介したいとショップ&ギャラリーをオープンして、もうすぐ30周年を迎えることになりました。三春堂を続けることができたのは、多くのあたたかい応援をいただいてきたおかげと、深く心より感謝しています。 30年前、東京芸大出身の武田武人さんの展覧会でスタートし、彼のモダンな感覚の陶芸作品が、その後の三春堂のイメージを作ってくれたと思います。彼の作品は先鋭的でありながら使う楽しみがあって、それまでのやきものとの違いが人々を驚かせ、魅了していきました。とくに建築家、デザイナーの方々に、大変喜ばれました。展覧会をしていない日常では、Le Corbusier(ル・コルビュジエ)の版画や、イタリアの Bruno Munari(ブル−ノ・ムナーリ)、Enzo Mari(エンツォ・マリ)のデザインした楽しく美しいインテリア・オブジェを扱っていて、空間演出の提案などもしていました。ちょうど10月25日から Shiodomeitalia クリエイティブ・センターで、「ブルーノ・ムナーリ展」がありますね。懐かしく、楽しみです。 そのころのショップの様子を、友人であり生涯三春堂をサポートしてくれた、建築写真家の関谷正昭氏が撮影してくれていますので、ご覧ください。なんとすっきりとして綺麗なことでしょう。現在とは大違いですが、ショップのインテリア、棚、テ-ブルなどは、ほとんど変わっていません。彼は1998年、オーストリーの建築家 Otto Wagner の「オットー・ヴァーグナー作品集 全4巻+ポートフォリオ」という大著を刊行して、4年後に急逝してしまいました。この撮影と、出版したかったイタリアの Carlo Scarpa(カルロ・スカルパ)の撮影に命を使ってしまったようです。(カルロ・スカルパの作品の撮影は、大方撮れているのですが、未刊のままです) 三春堂の重要なイメージとなっている四角い MIHARU のロゴマークは、関谷氏がデザインしてくれたもので、ほんとうに美しい贈り物をいただきました。そして、三春堂の DM のための写真は、2002年12月に亡くなるまでの147回の展覧会のうち、撮影のため海外にいるときを除いて、ほとんどすべてを撮影して、案内状のイメージを確立してくれました。三春堂の DM を海外に出しても、また後世に残っても(大げさですが、彼曰く)、写真、デザインともに恥ずかしくないものをという気持ちからの協力でした。 印刷物に対する美的なこだわりを、徹底的に教えられた気がします。 ![]() 目白駅そばのショップ&ギャラリーからスタートして3年後、下落合で出会ったスペースがギャラリーにぴったりで、無理なことを自覚もせずにショップとギャラリーを二箇所にわけて活動するようになりました。そのころから、国内だけでなく海外の作家にも興味をもちはじめ、最初にドイツの銅版画 Monika Muller -Leibl(モニカ・ミューラー・ライブル)の展覧会をしたのが1982年でした。案内状に使ったのは、展覧会をしたいと思った出会いの作品です。 一方、工芸では特にイギリスの作家に魅かれ、今では多くの方に人気のある Lucie Rie(ルーシー・リー)へ1982年、大胆にも展覧会を依頼する手紙を送っています。それにたいして、彼女から、ほかにしなければならない多くの仕事があって、受けられないとお断りの返事をもらいました。文面はタイプですが、最後に自筆のサインがはいっています。今、私の宝物です。その手紙の最後に、資料として同封した三春堂の何枚かの DM にたいして、「綺麗なポストカードを送ってくれて、本当にありがとう。」と書いてくれています。印刷物に対する関谷さんの思いが伝わった瞬間でした。 三宅一生さんが、彼女に惚れ込んで、日本での展覧会を実現してくださったのは、1989年です。それ以後、日本でのルーシー・リーの人気は大変なことになっています。 イギリスの作家で最初に展覧会を開催したのは1983年、ガラスの Steven Newell(スティーブン・ニューウェル)展でした。まだ日本のスタジオガラスの活動も始まったばかりで、個人作家が少なかったとき、イギリスの CRAFTS という雑誌で見つけた作家でした。展覧会を引き受けてもらえるとは思っていなかったのですが、意外にも OK の返事がきたときはドキドキしてしまいました。実は輸入のことを全く知らなかったので、それからが大変でした。また、彼を展覧会に招待する余裕は三春堂にはありませんでしたので、そのことは一切触れずにいたのですが、なんと自費で来日してくれたのです。彼は、新しくできたガラスの学校や三春堂でスライドレクチャーをして、ガラスの好きな人やガラス作家を目指す人たちに、大きな刺激と喜びを与えてくれました。 作品は、宙吹きで大きな器を作り、表面にグラビールやサンドブラストで物語性のある絵を表現する魅力的なもので、すっかり虜になって計4回の展覧会をしてしまいました。その間に、手元に残した(残った)作品が10数点もあります。どなたか、彼のための小さな美術館を作ってあげてくださいませんか? イギリスの陶芸では、のちに彫刻や絵画も表現した Jacqui Poncelet(ジャッキー・ポンセレ)の1984年の展覧会が最初で、衝撃的でした。「三春堂は小さいギャラリーだから大きな作品ではなく」とお願いしたにもかかわらず、とてつもなく大きな作品が届き、当時の日本での陶芸の概念を越える表現で、多くの人々を驚かせました。その大きな作品は、伊豆の旅館「清流荘」に展示されています。 その翌年は、評論でも活躍している Alison Britton(アリソン・ブリトン)展で、ジャッキーとは対照的に静かな造形力が魅力でした。二人とも来日した際に、国際文化会館でスライドレクチャーをして、イギリスの現代陶芸を熱心に紹介してくれました。それは日本の状況との違いが鮮明に現れた大変刺激的な内容で、レクチャー後の質疑応答では、活発な質問がでて凄く熱気があったことが印象的でした。 ![]() 日本の国立美術館が、イギリスの現代工芸のまとまった展覧会を開催したのは、1988年の京都国立近代美術館の「現代イギリスの工芸」展が最初だと思います。(1989年に東京国立近代美術館工芸館に巡回)初めてイギリスの現代工芸の魅力に出会ったという方も多い、記念すべき展覧会でした。 驚いたことに、美術館での展覧会が終わるころ、出品されている作品を買いませんかと、英国大使館文化部の British Council から、問い合わせ(売り込み)があったのです。日本では考えられないことでびっくりしました。輸送費なしで購入できるため、確かに安く手に入るので、Bryan Illsley(ブライアン・イルズレー)の Tree with One Fruit(一個の果物の下がる木)という奇妙で面白い作品を、どうして日本の美術館は、買わないのだろうと義憤?を感じて買ってしまいました。 余裕のない小さなギャラリーがそんなことを思ってはいけないのですが、思いが溢れると理性を失うことがよくある、困った性格です。 ![]() 先に、スティーブンの美術館ができたらという、淡い願いのようなことを書きましたが、三春堂には、ジャッキー・ポンセレ、アリソン・ブリトン、ブライアン・イルズレーほか、イギリスの作家の優れた作品が数多くあります。日本の作家の作品も、できるだけを残してきましたので、この時代の現代工芸が散逸しないために、どこかに私設の「現代工芸美術館」ができたらと、夢を見てきました。私は無謀な作品購入や、経営的に難しい企画ばかりを続けたために、立派な負債があって、とてもできません。 これらの作品が、その時代を表現していることの魅力と価値を理解してくださって、その作品たちをまとめて残そうという奇特な方の出現を長い間願ってきましたが、まだ現れてくださいません。もう私の力の限界がきています。どこからか、早く現れてくださいますように。 国内の陶芸では、伝統を大切にして色絵で愛しいお仕事をされた岩村福之先生の展覧会を、一度だけショップの時代にさせていただき、感動した思い出があります。すでに70歳を過ぎていらしたのですが、瑞々しい感覚で誠実な仕事を続ける姿に、とても大切なことを教えていただいた気がしました。 その後、福之先生以上に気に入った色絵の仕事に出会えず、三春堂には色絵のものがありません。ご子息の守先生は、全く違う彫刻的な陶芸の仕事をされていて、魅力的でした。その後、工芸と彫刻について考えるきっかけになったように思います。 なかなか気に入ったものに出会えなかった磁器の仕事では、京都芸大出身の前仲邦哉さんの上品なマット釉の白磁に、すっかり魅せられました。端正でモダンな形と、表面の微妙な陰影がなんともいえません。富本憲吉、近藤悠三、清水九兵衛に指導を受けると、前仲さんの経歴にありましたが、なんと贅沢な時代だったのでしょう。でも彼はその誰の模倣でもなく、自分の世界を築いていました。私に磁器の仕事の魅力を教えてくれた方でした。前仲さんのずっと後輩になる梶なゝ子さん、重森陽子さんたちとの出会いはとても新鮮でした。彼女たちの自由で溌剌とした表現は、そのころまだ八木一夫先生が教えていらした影響かと、想像してしまいました。当時、銀座に「むね工芸」というギャラリーがあって、毎年、東京芸大と京都芸大の卒業生の展覧会を交互に開催してくれていました。それぞれの違いが明瞭にでて、見るものにとって楽しい企画でした。そのような展覧会を毎年してくださった「むね工芸」は、ずっと以前に閉廊してしまい、その機会がなくなってしまいましたが、今、そのような展覧会を企画してくださるところがあったら、これからの作家にとっても、お客さまにとっても、楽しみで刺激になると思うのですが。 1985年、小川待子さんの初めての個展をさせてもらうことになり、彼女の大胆で魅力溢れる陶芸展の記録を残したいと思い、作家のインタビューをまとめた「EX」という機関紙を作ることになりました。 展覧会が終わってしまうたびに、案内状以外に残るものがないのが残念で、建築評論家の植田実さんに、「展覧会の記録」を雑誌に連載してもらえないかと相談したところ、雑誌はずっと残ることは難しいので、自分で出した方がよいと言われてしまいました。そのように言われたなりゆきで植田さんと、写真の関谷さんを巻き込んで、贅沢なインタビュー紙「EX」を発行することになったのです。紙面のレイアウトは関谷さんが担当してくれて、綺麗なデザインに仕上がりました。小川待子さんを特集した1号から、ファブリックの宮本英治氏を特集した10号まで出しましたが、これは印刷費も高く、手間がかかり、そしてあまり売れませんでしたので、三春堂はますます負債が増えていくことになりました。 でも、植田さんの魅力あるインタビューと、関谷さんの美しい写真という取り合わせは、「EX」でしか実現できなかったと自負しています。それぞれ違った魅力と個性で、二人は水と油のようでした。 ギャラリーがこのような記録を作ることは、費用がかかって大変ですが、海外の美術館への資料としては、とても役にたってくれました。このような資料は、海外の作家や美術館は評価してくださいますが、日本の場合は、あまり評価していただけなかったように思います。 1985年から1991年まで6年間の抜粋された記録ですが、今でも三春堂の姿勢を伝える大切な資料になっていると思っています。これはひとりよがりでもあるのですが、この仕事は自己満足やひとりよがりな気持ちがないと、続けていけないような気がしています。 1994年には、ロンドンにあるヴィクトリア&アルバ−ト美術館のキューレーターのルパートさんがショップに来てくださいました。それは翌年5月に V&A で開催される「JAPANESE STUDIO CRAFTS」展のためだそうで、日本の工芸を伝統から現代まで、すべてを網羅した大展覧会になるとのことです。三春堂へは「CRAFTS」という部門のために、作品を探しにいらしたそうです。ルパートさんは日本語が堪能で、しかも工芸文化の歴史を研究されているので、私などより日本の工芸全体に詳しくて驚きました。その展覧会は、V&A が所蔵している多数の作品の中から選ばれたものと、日本からの作品借用、そして購入するもので構成される広範な内容で、日本では実現しにくい魅力的な企画でした。 「CRAFTS」部門のための良い作品がなかなか見つからなかったそうですが、三春堂にある作家の作品を大変気に入っていただき、貸し出しではなく、お買い上げくださることになりました。 購入されることになったのは、武田武人(陶)、筒井修(陶)、重森陽子(陶)、松本ヒデオ(陶)、佐藤阡朗(漆)、山村慎哉(漆)、畠山耕治(金属)、冨田潤(染織)、宮本英治(織)の9名の作品です。 ルパートさんが三春堂ショップで計算機も使いながら、熱心に選んでくださっている様子は、とても嬉しく楽しかったです。三春堂が扱ってきた多くの作家が選ばれて、それまでやってきたことが、名誉あるかたちで報われた時でした。それまでは、イギリスの作家の作品を三春堂が買うばかりでしたが、初めて三春堂が扱っている日本の作家の作品を、イギリスに買ってもらうことになったのです。それもヴィクトリア&アルバート美術館に。目白の小さなギャラリーに起きた歴史的出来事だったと思います。 このときのことで、さらに忘れられない出来事がありました。ルパートさんが来店されたころに、ちょうどギャラリーで重森陽子さんの個展を開催していたので、ルパートさんに見ていただくことができ、幸運にもその展示のなかから、購入作品が決まりました。 そのしばらく前に、ある作家さんの展覧会に伺う機会があり、そこに日本の陶芸界で、大変影響力のある先生がいらしていて、以前にもお目にかかっていたので、次回の重森さんの案内状をお渡ししようとしましたら、その案内をご覧になるなり、「こんな....」と受け取られませんでした。まわりに作家さんたちやお客さまのいらっしゃるところで、ずいぶん配慮のない言動と驚きました。このような方が、陶芸展の審査員をし、出版物の監修をされ、陶芸界に君臨できる日本の状況に疑問をもってしまいました。 その方が、案内状を見ただけで否定した重森さんの展覧会で、ヴィクトリア&アルバート美術館は作品を購入してくださったわけです。 このあまりにもギャップのあるできごとは、日本的な悪しき世界を見せられた気がしました。このような日本の陶芸界に対し、三春堂はどうあるべきなのかと考えさせられた、忘れられない思い出です。 三春堂の30年を振り返ってみようと書きだしたのですが、とても書ききれませんでした。また、いつか続きを書いてみたいと思います。 三春堂は、優れた現代工芸の紹介ということでは筋を通してきたと思うのですが、経営としては成り立たないことばかりをしてきてしまったようです。ショップとギャラリーの2箇所を続けることは、もうずいぶん前から難しくなっていたのですが、希望的観測で続けてきてしまいました。でも、経済的にも体力的にも一箇所にするべき時がきました。三春堂発祥の場所であり、大好きな空間であるショップを閉めることは、長い間決心がつきませんでしたが、ようやく現実を受けいれる気持ちになりました。今後は、ギャラリーの方1箇所に集中して、充実した楽しい内容が展開できればと思っています。今年の12月中旬には、ショップを閉じるつもりです。それまでに、30年を振り返る催しができればと思うのですが、30年は長く、準備の余裕がなくて難しそうです。 また、三春堂ショップの前の通りは、大好きな自由学園明日館へ続く道です。2002年にギャラリーマップを作成するとき、個人的な遊び心で、設計者のフランク・ロイド・ライトの名前から「F.L.ライトの小路」と、つけてしまいました。その後、豊島区の広報にも載って正式な通り名となって、来年度は、いよいよ豊島区が道の整備のために、予算を計上してくれることになりました。通り名を付けたのにショップを閉じるのは残念ですが、目白から離れるわけではないので、これからも協力させていただければと思っています。 もし、三春堂ショップを残そうと、救世主となってくださる方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報ください。 2007年10月25日 安藤 三春
by miharu-ando
| 2007-11-01 04:54
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